急速に普及を始めたエピソード分割商法

世界中のファンが注目していた『FINAL FANTASY VII REMAKE(ファイナルファンタジー 7 リメイク)』がエピソード分割商法を採用したことで、急速にこの商法は知名度を上昇させている。従来ゲームの販売方法といえばフルプライスで販売されるパッケージを一度購入すればそれで終わりだった。ユーザーは一度の支払いでゲームの始めから終わりまでを遊べるようになっていた。

今やその形式は変化を始めている。

物語が小さな単位に分割された状態で販売されることで単品の価格は比較的安価で提供され、購入する側としては「思っていたのと違う」という事態になるリスクを低減させることが出来る。パブリッシャーとしても価格を引き下げることで購入障壁を取り払いユーザーを取り込みやすくなる。

「ストーリー性の強いゲームはエピソード分割型にしていきたいという意識はここ数年、制作者側が口にしていた」とゲーム開発スタジオ・エンタースフィア代表の岡本基氏が語る。最近では『Life is Strange』などこの商法を採用し大ヒットとなった作品が急速に目立ち始めている。

ゲームが単品販売を避けエピソード分割販売に舵を切り出した理由の一つには ゲーム開発費の高騰 が存在する。

リスクを避けるあまり陳腐化したゲーム業界

ゲーム業界における競争の激化と技術の向上に伴い、市場はより高品質な作品を求めるようになり開発費は高騰の一途を辿っている。制作費 95 億円と目される『Metal Gear Solid V』など、最近では数十億円をかけて制作されるゲームは珍しくない。

当然、そのような大金をかけて制作されるゲームに対して投資を行うパブリッシャーはリスクを避けたがる。その結果何が起こるかというと、一つの大ヒット作品が生まれると全てのパブリッシャーがその流れに乗っかろうと大ヒット作品の様式に倣おうとする。これが意味するのは粗製濫造によるゲーム業界の陳腐化だ。

かつて強烈な衝撃を持って話題をかっさらっていた『バイオハザード』や『Dead Space』といったサバイバルホラー作品は、流行していたアクション要素を過剰に取り込むことでその人気を失い絶滅の危機に瀕したことがある。

膨張する開発費を抑制するために、一定の成功を見込める既存の流儀を真似し続けることでかえって寿命を縮めてしまう。そんなゲームの革新性を殺してしまう現在のゲーム業界の構造について、元 Ubisoft 幹部のJade Raymondや Red Barrels のPhilippe Morinを始めとする多くのゲーム開発者が警鐘を鳴らしていた。

苦しみの中で見つけたエピソード分割というリスク回避

資金を提供するパブリッシャーの意向により作りたいものが作れず、ゲームジャンル絶滅の危機に瀕し苦しみに喘ぐ中で見つけたのがエピソード分割販売だ。以前に小島プロダクションのボスである小島秀夫氏は、大規模化する開発環境に対して「海外ドラマなどに多く見られる手法を取り入れることでこの問題に対処できる」と語っていた。

「テレビシリーズのようなやり方だ。まずは第 1 話を作成してテストする、プロジェクトを本格起動する前にまずは様子を見てみる。それくらいの作品なら開発にはあまり時間がかからない。もしテスト版の反応が良ければプロジェクトを続行することも出来る」

小島氏が語るこの方法では、プロジェクトの開始段階から全力のリスクを抱え最後まで走り抜くよりも、開発に掛かるリスクは格段に低くなる。ユーザーからの期待に見合った配分で開発を行うことが可能になるからだ。

もちろんエピソード分割販売にはそれだけでなく開発側への時間的猶予というメリットも存在する。既に配信したエピソードに対するユーザーからのフィードバックを基に、次回作に調整を加えたり方針を転換するなど最善を探ることが可能になる。これもより良い作品を生み出すこと、リスクを低減することに繋がる。

他にも長大な物語を語る途中で開発者サイドがユーザーがプレイする流れに区切りを設け、「続きが気になる」というユーザーのモチベーションを維持する効果も期待できる。開発の最中にユーザーからの意見をもらえることが開発者自身のモチベーションにも繋がるとDONTNOD Entertainmentは明かしている。

娯楽として幼いゲームの発展の余地

野心的な作品に挑戦するチャンスとなるエピソード分割商法は、リスクに怯えた人々にとっての救世主となるだろう。

もちろんサバイバルホラー作品が辿ったように、全ての作品にこの商法が合致するとは言えない。Valve が大成功したように基本プレー無料など、それぞれの作品に適うビジネスモデルが存在し、それを見つけなければ成功を望めないことは事実だ。

小説や漫画、アニメなど歴史の深い娯楽に比べて、ゲームはまだまだ生まれて間もない存在だ。先んじた娯楽が様々な変革に揉まれつつ発展を遂げたように、ゲームの在り方というものも変化していく余地は大いにある。

ゲームが迎えたボリュームとリスクの問題に対して、今後はどのような変化が現れるのだろうか。