現在の日本が陥っている負のスパイラル

かつてのゲーム大国、日本のゲーム業界は亡くなったのだろうか。国内市場は停滞し海外輸出は苦戦を続ける日本のゲーム産業について、みずほ銀行による産業調査「コンテンツ産業の展望」が公開され、現在の日本が陥っている負のスパイラルについて解説している。

調査によれば産業全体の課題には「市場規模の縮小」、「作り手(コンテンツ制作事業者)の疲弊」、「オリジナル新規コンテンツの創出力低下」の 3 点があるという。これらが単体ではなく相互に連関することで負のサイクルに陥っている状態だと調査では指摘している。

世界と日本の趣向の違い

みずほ銀行は、日本で好まれるゲームジャンルは「スーパーマリオ」に代表されるアクションゲームと「ドラゴンクエスト」に代表される RPG であり、欧米で好まれるゲームジャンルは、リアル性が高く没入感の高い FPS やリアルタイムストラテジーなどだと語る。

こうした欧米との嗜好性の違いは、報告によれば欧米とのゲーム産業発展の違いに起因するのだという。

1983 年から 1985 年にかけて、大ヒットを記録した Atari のゲーム機「Atari2600」に多数のサードパーティーが参入しゲームソフトの過剰供給と粗製乱造が行われ、市場全体の信用が失われ北米におけるコンシューマゲーム市場が急速に衰退した「アタリショック」を機に、北米では多くの企業が PC ゲームの開発にシフトした。

一方で日本では任天堂の「ファミリーコンピュータ」が世界中でヒットしたことで、コンシューマゲーム市場は日本勢が世界を牽引することとなるが、米国では先述したアタリショックの影響によってコンシューマゲームのみではなく PC ゲーム市場が両立して発展することとなった。

家庭用機と PC が両立したアメリカでの技術進歩

PC ゲーム市場が両立して発展した米国では、インターネットの普及に伴い「Diablo」や世界初の本格的 MMORPG「Ultima Online」が人気を博し、ゲーム技術の発展が進み F2P や追加 DLC といった様々な販売方法が生み出されることとなった。

対する日本の PC ゲーム市場では、米国と違い高価格な国産 PC が市場を寡占したことで一般家庭への PC が普及が進まず Windows 95 が発売されるまで日本では PC ゲーム市場が発展することはなかった。またコンシューマ市場が圧倒的優勢であった日本では、PC ゲーム市場はコンシューマ市場が扱えないアダルトゲーム文化の発展が中心となっていった。

PC ゲーム技術の遅れが致命的に

技術の進歩によりコンシューマゲームの開発が PC ベースで行われるようになり、それまでコンシューマ市場と PC 市場が両立されていた米国では技術転用がスムーズに進んだが、コンシューマ市場が中心であった日本ではそれが機能せず、1990 年後半にはコンシューマゲーム市場においても欧米ゲーム会社の台頭が始まった。

今や最新のゲームでは実写映画などと遜色ない表現が可能になり、米国では映画に次ぐ娯楽としてゲームは子供から大人まで楽しめるエンターテイメントとなっている。その一方でゲーム開発費の高騰は続き、リスクを嫌ったゲーム開発会社は一つのゲームをコンシューマ・PC・モバイル等の複数のプラットフォーム向けに発売する戦略をとり始めている。

モバイルゲーム市場の拡大により日本の大手ゲーム会社は表向き堅調な推移を続けているが、世界的にコンシューマ市場の規模拡大が続く中で日本のゲームは存在感を失い、世界を相手にしたゲーム開発が行えなくなり、それによりさらにモバイルゲームへと傾倒しさらに存在感を失っていくスパイラルが出来上がりつつある。

ゲーム産業の課題

日本のゲーム産業はモバイルゲーム市場の拡大を背景に成長を続けているが、競争の激化に伴い簡単に利益を得られる市場では無くなりつつあるという。そこでみずほ銀行は日本のゲーム産業の最大の課題は、「海外コンシューマゲーム市場における競争力の低下」にあると指摘している。

その原因として「市場規模を反映した開発予算の違い」と「欧米市場との嗜好性の違い」を挙げるみずほ銀行は、最新技術を駆使し大規模開発を得意とする欧米ゲーム開発会社に対して、モバイルなどの制限の強い中での独自性を創ることに長ける日本ゲーム会社にはノウハウなど超えるべき課題が多いと指摘する。

また嗜好性の違いにより日本のゲーム会社は、日本向けのゲーム開発を行うと海外で売上が伸びないといった課題を抱えていると指摘し、負のスパイラルがよりいっそう日本のゲーム会社を取り巻く環境を悪化させていくだろうと予想している。

「モバイルゲーム市場は、海外製ゲームの大量流入や高品質・低価格ゲームの登場によるさらなる競争激化が予想され、端末の高機能化により、将来的にはゲーム分類ごとの垣根が無くなり、全てがインターネット上で繋がっていくことが予想される」

高性能端末の出現により従来までの競争環境が変わってしまった時、ゲーム開発力の落ちた日本のゲーム会社はどうなるのだろうか。みずほ銀行では「国内市場の再編によるゲーム開発体制の再構築」と「戦略的な産業支援策」、「海外企業買収による地産地消」をいずれ来るだろう変化への対抗策として列挙した。

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