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『The Vanishing of Ethan Carter』の成功から見る、ボリュームの少ないゲームのリスクについて、海外ゲーム情報メディア「Polygon」の記者 Ben Kuchera 氏が論じていたので、紹介しつつ考えていきたい。
ゲームのボリュームは売り上げに直結するのだろうか
ショートゲーム(ボリュームの少ないゲーム)は、慢性的に時間がない人にとっては素晴らしいゲームである。『The Vanishing of Ethan Carter』(以下、TVEC)はまるで AAA タイトルのような豪華なつくりであり、しかしボリューム自体は 3 ~ 5 時間ほどと短かった。もちろん、それにあわせて価格も安くなっていた。このゲームは、良くも悪くも、ゲームのボリュームについて多くの議論を巻き起こした。
TVEC のゲームデザイナーである Chmielarz 氏は、「TVEC は 3 ~ 5 時間ほどのボリュームで、20 ドルの価格で販売することによって成功した。それ以外の価格帯、ボリュームだったとしたら、資金、人材のバランスが取れなかった」と言っている。
「ツイッターでゲームのボリュームに関して”ゲームが長ければ質が高くなると思ったら大間違いだ”とつぶやいたが、別に私はショートゲーム信者な訳じゃない。ただ、TVEC は 4 時間ほどのボリュームのゲームであることをみんなに伝えたかっただけなんだ」
確かに、ネット上ではゲームのボリューム不足について嘆く声がいくつか聞かれた。しかし、Steam のレビューは 90%以上が”お勧めする”という評価だった。レビューにはみんなこう書かれている、「”great but short”(面白い、けれど短い)」
Steam のレビュアーが言うように、人々はみな全てのゲームに長く遊べることを求めているのだろうか。
Chmielarz 氏はこの質問に対する答えは持ち合わせていないようだった。「私たちは最初の十五日で五万本売り上げた。それが 9.99 ドルならもっと売れたのだろうか?それとも、彼らが満足するまでゲームの長さを伸ばせばよかったのだろうか?私には全く分からない」
これはリリースするまで誰にも分からない。そして、多くのデベロッパが頭を抱える問題でもある。Chmielarz 氏は「いつか、このようなミドルタイプのゲームが評価される日が来るが、それまで時間がかかるだろう」と締めくくっている。
昨今のゲーム開発事情
“短いって?じゃあ続きつくろうか!”とはいかないのがゲーム開発である。昨今のゲームは余りにも開発費が高すぎるのだ。
大ヒットして続きのセールスが確約されていなければ、現状ゲーム開発は余りにもリスクの高い投資なのだ。(2001 年ごろは平均して 2000 万円ほどだった開発費が、2010 年の時点で 1 ~ 3 億円以上に膨れ上がっている)
小説が生まれて数百年。漫画も 200 年以上。アニメも 100 年近く。ゲームはまだ生まれて間もない娯楽だ。印刷技術の向上、テレビの普及とともに漫画、アニメが大衆娯楽として定着したように、ゲームの発展はコンピュータと共にある。そして、コンピュータは未だ発展途上だ。ゲームの販売形態も変化する余地は大いに残されているはずだ。
『メタルギアソリッド』シリーズで知られる小島秀夫氏は、ゲーム開発費の高騰に対するリスクへの対処法を以前「EDGE」にて語っていたので、それを紹介しておきたい。
ゲーム開発の連続テレビ番組化の持つ可能性
小島秀夫氏は、次世代機の登場によってさらに大規模化する開発環境に対して、海外ドラマなどに多く見られる手法を取り入れることで、この問題に対処できるとの考えを語った。
「この問題に取り組む別の手段が残っていると思う。テレビシリーズのようなやり方だ。まずは第 1 話を作成してテストする、プロジェクトを本格起動する前にまずは様子を見てみる。プレイヤーの反応を探って試すことが出来るんだ。それくらい作品なら開発にはあまり時間がかからないはずだ、おそらく 1 年ほどで作ることが出来る。もしテスト版の反応が良ければ、プロジェクトを続行することも出来る」
確かにこの方法ならば、開発費の高騰によるリスクを抱え、いざゲームが完成し投資した開発費を回収することが出来るのか怯えることは減り、野心的な作品に挑戦する機会は増えていくだろう。
テレビシリーズを参考にしたこの方法の類似として、土台となるゲームを始めに提供し、物語の続きをスケジュールに併せて販売していった『シェルノサージュ〜失われた星へ捧ぐ詩〜』や、『バイオハザード リベレーションズ』のようにエピソード毎の分割販売といった手法を採用した販売形態も出始めている。
今後このような手法が増えていくのか、全く違う手法が飛び出してくるのか、ゲームのボリュームとリスクに対する答えを、ゲーム業界がどのように出してくるのか注目したいところである。