「運」と「運ゲー」の違い

高難易度なゲームとして知られるゲーム『永遠のアセリア』を企画したゲームデザイナーの高瀬奈緒文氏が、艦隊育成シミュレーションゲーム『艦隊これくしょん~艦これ~』を例に、ゲームデザインと運要素の相乗効果について語った。

高瀬氏は艦これは運ゲーであるとの声に対し、試行回数が一度だけではなく何度でも用意されている点と、プレイヤーが様々な工夫をして勝率を上げる手を打てることから、「艦これは運ゲーではない」と主張している。

たしかに艦これのボス戦などでは運の要素が一気に高まるとしながらも、それは「そうあるべき箇所」であって運ゲーとは違うのだと話す。「ボスとの最終戦を最大限に盛り上げる部分はドラマチックなほうが印象に残り達成感に繋がるのです」

「ボスに対してダメージを与えられた成功体験から『もう一度出撃!』というプレイサイクルに見事にハマる、『運の面白さ』をうまく使っているところです」

音楽演出+カットイン連打+クリティカル率上昇と待ち受ける異常に強い敵。「これを倒してみやがれ!」という運営からの挑戦状に対してプレイヤーは試行回数を増やし、レベリングや装備の見直しなどを迫られる。

「それでもどうしても『最後は運じゃん』という意見が多数でしょう。そこが艦これのラックマネジメントの限界値です。そうなのです。『最後は運』なのです」と高瀬氏は語り、どれだけ勝利の確率を上げても最後の最後で運に任せる部分が存在する、しかしだからこそゲームが盛り上がるのだと述べた。

運要素は恍惚感のトリガー

「『どうしてももうダメだ!』ってなった時に、駆逐艦の最後の雷撃がクリティカルでボスに飛んで凄まじいダメージを叩き出しクリアした瞬間の恍惚感、これは艦これプレイヤーならば一度は体験しているはずです。これは心理学的に『ギャンブルの絶望からの成功体験の刷り込み』に近い」

据え置き系のゲームと異なり「勝てる前提」のシステムではなく、ソーシャルゲームらしい「負ける前提」のシステムで設計し、何度も挑むというプレイサイクルと約束された報酬によってユーザーを駆り立てるゲームデザインの巧さが艦これにはあるという。

艦これは『ラックマネジメントゲーム』ではあるけれども、『マネジメント限界値』が存在するゲームと言えます。それがこのゲームのシステムデザインの巧さです。

プレイヤーができること全てをやり遂げた上で、最後は艦娘たちの活躍に託す。ラストのハイリスクな夜戦で、駆逐艦たちが活躍するなんてドラマチックじゃないですか。

高瀬氏は自身が以前パチンコ業界関連のシステム開発に携わった際、高レベルに研究されていた運の使い方と、それによる射幸心の発生のさせ方、顧客を囲い込むための心理学的アプローチと数学的アプローチに驚いたという。

サイコロを使ったボードゲームや、カードゲームにも運の要素は存在する、それは悪いことだろうか?運は重要な要素だ。

ユーザーのヘイト管理によるゲーム離脱率の抑制

現在のゲーム業界におけるゲームのデザインについて、高瀬氏は「敗者を作らないヘイトの管理」が常識になっていると語った。

現代人は失敗を自己責任になるゲームが嫌いというのが現在のデザインにおいての常識になっています。ヘイトの矛先を運のせいや運営のせい、さらには仲間のせいにする

高瀬氏はブシロード社のゲームデザインを例に、「運が悪かったね」と言える仕組みを作り、ユーザーのヘイトを作り手に向けさせるゲームデザインとすることで、かえってゲームからユーザーが離れなくなるという。

「アニメの主人公が挫折する話は受け入れられず、挫折は仲間がして主人公はほぼ万能に近い。これがトレンドなのとちょっと似ています。ユーザーの逃げ場がどうやら必要な時代みたいです。自己責任は他者には求めるけど自分には適応させないのが現代なのです」

また、作品をプレイヤー間の中で話題にさせ盛り上げるための手法として、定期的な大規模イベントを導入する艦これの手法を評価している。

「時間が無限だったら、みんな同時期に盛り上がれないのです」、高瀬氏は期間が区切られているからこそ高難易度なイベントに対してプレイヤーが情報交換を交わし、挑戦するタイミングを同期させることに意味があるという。

史実を基に「次はこれが来る」などをプレイヤー同士が話し合い、イベント時に有効と思われる装備を準備する、戦史を調べる内に使用しているキャラクターに感情移入しゲームにハマっていく面白さを語った。

最後に高瀬氏は、今のゲーム業界ではヒント機能やプレイ誘導がオート戦闘が必ず搭載され、クリア前提のデザインが主流であることに対して「本当にそれでいいのだろうか?それならノベルで良いのでは?」と疑問を投げかけた。

時代を築いた『ストリートファイター』、『モンスターハンター』、『ダークソウル』など歯ごたえのあるゲームが現在も発売され、長期コンテンツとして生き残っていることを例に、トレンドに左右されないコンテンツ作りこそがクリエイターにとっての命題だとした。

残念ながら商品開発にとって経営者の説得に必要なことは面白さではなく売り上げ数の根拠であり、現在の一般論と面白いものを作ることの間でクリエイターには妥協する葛藤があると話し、それでもコンテンツを爆発させ、「新たな時代をユーザーたちが築いてくれるからこそ、それを信じて自分たちは挑戦を続けていきたい」と高瀬氏は語った。