お馴染みのフルトン回収システムは実在した

気球を取り付けて敵兵士を空高く飛ばして回収、 メタルギアソリッド シリーズでお馴染みとなった「フルトン回収システム」が実は実在した技術が元になっていることはご存じだろうか。

そんなフルトン回収システムの元になった技術は一体どんなものだったのか、現実のフルトン回収システムの歴史が解説されていたので紹介したい。

冷戦時代に開発された技術がベース

『メタルギアソリッド V』では動物から人、乗り物まであらゆる物を空に吹き飛ばしていった「フルトン」。これは 1945 年からアメリカとソ連の間で始まった冷戦時代に生まれたもの。その経緯は作中でも描かれたように地上から空へと対象を持ち上げ、回収するためのシステムだった。

「Fulton Surface-to-Air Recovery System」、略称として「STARS」と呼ばれたこの技術はスカイフックとも呼ばれ、主にソ連へと潜入したスパイ達を安全に回収するために考案されたのだという。スパイの代名詞であるジェームズ・ボンド、1965 年に公開された映画「007 サンダーボール作戦」でも STARS を用いた脱出シーンは描かれている。

STARS が誕生したのは 1950 年代に遡る。冒険家であり発明家でもあった Robert Edison Fulton, Jr.氏がアメリカ中央情報局(CIA)と共に誕生へとこぎ着けた。

しかし STARS は始めから STARS として生まれたわけではない。Fulton 氏が空飛ぶ車の開発を行っていた際に「飛行機もヘリコプターも着陸できない場所に取り残された人がその場を脱出する方法」について考えていたことがきっかけで STARS は誕生することになったのだという。

Fulton 氏と同時期に、CIA は離着陸する航空機を見つからずに潜入したエージェントを素早く回収する方法を模索しており、Fulton 氏の考えに価値を見いだしたのだ。

考案された「人に風船をつけて浮かばせ、航空機で風船ごとすくい上げる」アイデアは、様々な重りやダミーに航空機を用いて実験が進められ実用的な回収システムとして発展を遂げることとなった。

豚を使った回収実験

極秘に進められた STARS の最終デザインテストはゲームよろしく動物を使った、豚を使った実験であった。その結果を CIA は下記のように報告している。

まず生身の人間の回収を試す前にダミーをテストに使用しました。次に試したのは豚です。豚には人に似た神経組織が備わっています。地上から持ち上げられ、豚は宙を時速201kmで飛ぶとともにスピンし始めました。無事に傷一つなく回収できたものの、豚は混乱状態に陥ったようです。そして、混乱状態から回復するとクルーを攻撃しました。

1958 年に STARS の開発は最終段階となり、実際に人を用いたテストが行われることとなった。

回収される地上の人物はヘリウムボトルと風船を着用して空へと浮上し、航空機は地上 130 メートルに浮かぶ対象を目掛けて飛行して、機体のノーズ部分に取り付けられた 9 メートルのフックで風船をすくい上げる。引っかかった風船は装置を通じて機体に対象を固定し、それをパワーウインチを使用して機内へと引き上げる手順だ。

fultonsystemSkyhook

STARS が初めて実際に投入されたコールドフィート計画

STARS が初めて実戦投入されたのは、1962 年に CIA によって行われた放棄されたソビエト連邦北極調査基地から情報を持ち帰るコールドフィート計画だ。

2 人の情報収集要員が B-17 航空機から降下しソ連基地へと潜入、7 日後に STARS を用いて 2 人は帰還した。計画は無事成功し、残されていたソ連の対潜戦と音響技術を奪取すると共に STARS の有用性を証明する結果となった。

要員を遠隔地から回収できることを証明した STARS は、その後 30 年間にわたり CIA やアメリカ空海軍で幅広く実戦投入されてきた。危なげな見た目とは裏腹に、STARS は稼働した 1962 年から 1990 年代の間に STARS を使用しての死亡者は 1 名のみだったという。

1990 年代末期にはヘリコプターの行動範囲と離着陸性能の向上によって STARS の優位性は薄れていき、1996 年には空軍特殊作戦コマンドが作戦への利用をやめ、表舞台からは退場していった。

そんな歴史を持ったユニークな技術が メタルギアソリッド のミームとして息づいているのを知ると、少しゲーム内で見る目が変わるかも知れない。

via: Kotaku