クラウドゲームは革命たりうるのか?

スクウェア・エニックスを離れ、今後はクラウドゲーミング技術に特化したシンラ・テクノロジーの社長としてゲームに携わっていくことが判明した和田洋一氏が、2015 年 4 月 24 日に開催された OGC2015(ONLINE GAME CONFERENCE)にて、「クラウドゲームは革命たりうるのか?」をテーマに、クラウドゲームの位置付けについて語っている。

世界有数のゲーム企業を率いてきた和田氏が見据える今後のゲーム業界論をチェックしたい。

ゲーム産業、激動の 10 年

講演で示されたグラフには、端末ごとに地層のように堆積するように描かれたゲーム市場規模が直近の10 年間で大きく様変わりしている様子が見て取れる。10 年前に比べて市場は約 3 倍ほど成長しているが、その内訳は急成長してきた PC/モバイル勢が大きな存在感を示し、家庭用ゲーム機は相対的に押される形となっている。

これをプラットフォームの観点から見た時、和田氏は「ゲームというコンテンツは物理的な形になっておりませんので、どこで動作するかが重要になります」と語り、複雑なアプリケーションであったゲームがゲーム専用機でしか動作しなかった「ゲーム専用機の時代」から、近年ではゲームのためだけに作られたのではない汎用機でゲームが動作する「汎用端末の時代」へと推移していったことを説明した。

そして次なる時代として和田氏は「クラウドの時代」の到来を予測している。

時代の転換点、ビジネスモデルの革新

「これまでのゲーム専用機、汎用機への推移、ここまでは連続的な変化です。なぜなら全て端末側の性能の進化に伴って起こった変化だからです。ところが、これがクラウド側に移るということになりますと、全く今までとは違って不連続な展開になります」

物理的な形を持たないゲームというコンテンツは、これまで何かのメディアに定着させて運ぶ時代を経てきたと紹介した和田氏は、物理メディアからデジタルへとそれが推移したように今後はストリーミングが台頭してくると語る。

「メディアが変わると何が一番変化するかというと、流通の仕組み、つまりビジネスモデルの根幹のところが全く違ったものになっていきます」

ゲーム産業初期の物理メディアが主流であった時代ではゲームはフルパッケージで販売することが基本であったが、デジタル販売に主流が移行したことで「第一章のみの配信」など、コンテンツを断片的に販売すること可能となり、それまでコストなどの面から不可能だった販売方法が可能になった。

ストリーミングになりますとさらに新しい論点が発生します。ストリーミングになると権利が移転しません。サービスを買っていただくことはあっても、ゲームを買っていただくことができなくなります。こういったことは、現状世間で想定されておりませんので、いろんな問題が起こります。IP の問題も起こるでしょう」

ネットが定着した時代にいかに成長を遂げるか

その時代ごとのテクノロジーとビジネスモデルが可能な範囲で、その時代のゲームのコンテンツデザインが定義されると主張する和田氏は、今後に取るべき方針としてネットの深掘りを示した。

「ネットの新規性だけではもう引っ張れません。例えば TV ゲームもそうでした。出てきた頃は、TV の中で物が動いている、それに関われる、これだけで楽しかったのですけども、今では当たり前過ぎてそれだけでは誰も許してくれません。ネットというだけで面白かったという時代は終わってしまった。今後は、それをどう深堀っていくかというところがポイントになると思います」

コンピューターの機能分化

本来 1 台のマシーンで行われてきた処理をネットの発達により分業化できるようになったことで、和田氏は大きくコントローラーなどのインプット分野、伝達を司るプロセス分野、仮想現実など発展著しいアウトプット分野に分けることが出来るとし、その上で和田氏が注力しているのはプロセス分野だという。

クラウドゲームで何が変わるのか

そもそもクラウドゲームとは何か、和田氏はこれまでそれぞれのユーザーが個々に処理端末を所有していたスタイルから、処理は外部のデータセンターに任せてユーザーは画面への出力端末だけを所有していれば端末を選ぶことなくゲームが遊べるようになると簡単に説明した。

しかし和田氏はクラウドゲームではそれだけではなく更に重要な点に、これまでネットワークゲームの開発にはクライアント側でゲームを動作させサーバー側で同期を行うという複雑なスキルが必要だったが、クラウド化によってクライアントもサーバーも一つに集約されることで大幅にゲーム開発が楽になるメリットを掲示している。

ユーザーの手元には処理された映像のみが届くためにチート対策などが不要となり、データの同期などもクライアント側のスペック差や回線速度などに左右されずに一元化することが出来るためだと和田氏は説明している。

「これまで、オンラインゲームを作る際には、努力の 8 割から 9 割をオンラインゲームを作るためだけに割かなければならなかったのが、クラウドゲームになるとゲームデザインに特化して考えることができます。これは一見地味に見えるかもしれませんが、ゲームデザインの大きなジャンプにつながるのではないかと思っております」

現実世界のネットへの浸透、共鳴

ネットが目新しいものでなくなり、現実世界で起こるようなことはほとんどネットで再現できるようになった現在、コンテンツとして何が面白いのか、何が面白く出来るのかについて和田氏は「実際の世界で起こっている面白いことをそのまま順番に持っていくという作業自体が、実はかなり新しい」としてヒントがあるとした。

和田氏は家で友達やゲームセンターで上手い人がプレイしている様子などを見ていた時代から、Twitch やニコニコ動画などでネットを通じて他人のプレイの様子を眺めるようになったことなどを例に挙げ説明した。

総括

これまでは『ゲームを遊ぶ』でしたが、これからは『ゲームで遊ぶ』になる。ゲームプレイヤーから収益化するのが、ゲームを楽しんでいる友達を見るのが面白い、ゲームを作っている人を応援するのが楽しい。ゲームプレイヤー以外に市場を拡大するという余地があり得るということですね」

和田氏は最後に「クラウドゲームは世の中を変える決定的に重要な要素ですが、唯一の要素でもありません。しかしながら、クラウドゲームという要素が、ゲームを新しくしようという部分を担っている点が重要なのです」と、来たるべき新しい時代への想いをまとめた。

ソース: シンラ・テクノロジー