Steam上の価格設定の裏側とは

PCゲーマーの多くはその便利さとコミュニティ機能、取り扱い作品の多さからValve社の提供するプラットフォーム「Steam」を好んで利用している。とりわけ多くのユーザーに受け入れられたのが価格だ。デジタル販売によって物理媒体による販売に比べてコストが掛からず安価な定価の実現と、それに加えて定期的に行われる大規模なセールがSteamの支持される大きな理由だろう。

だがしかし、同時に多くのユーザーをいらつかせている点もまた、世界の地域毎の一見不当な価格差だろう。

西ヨーロッパと北アメリカは、1億人を超えるアクティブユーザーのSteamにおいて、売り上げと人口の約80%を占める主要な市場となっている。しかし、大きな貨幣価値の差を感じさせない二つの地域の間において、為替レートを踏まえたとしてもある時は高くある時は安く、一貫しない価格差が存在している。

その差はAAA級タイトルに比べ、インディータイトルではより顕著だ。

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この矛盾は何故起こるのだろうか?デジタル・ゲームの販売価格において、物価の差が等しく反映されるべきというのはもっともな意見ではないだろうか。なぜ作品によって他地域に比べて高かったり安かったりと状況が変わってしまうのだろうか。

不条理な価格格差について、海外メディアが複数のデベロッパーに取材し地域毎の価格設定の裏側を報告している。

Valveにより提案される地域別の価格

ここ数年のインディー市場が爆発的な成長を果たすより以前、ゲームの価格は限られた少数の力あるパブリッシャによって定められてきた。家庭用機向けに販売されるAAA級タイトルの平均60ドルという価格に習い、PCゲーム市場においてもそれが適用されていた。

しかし、インディー市場の成長に伴い消費者には5ドル、10ドル、15ドルと、これまでにない広範な価格の幅がもたらされた。

価格決定についてDevolver Digital(Hotline Miami)とTripwire Interactive(Killing Floor, Red Orchestra)が答えた内容によると、基準となるゲームの価格は開発者との率直で正直な会話を通して決定されるという。

基準となる価格が決まった後、次のステップでは他地域における販売価格が決定される。Steamへと決定した価格を伝えると、他地域の現地通貨に合わせた価格を自動的にValve社は提案してくる。その提案された価格は任意で変更することが可能だ。どのような仕組みで提案する価格をValveが定めているのかについては回答を拒否されたため不明。

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あくまで予測でしかないが、提出されたその時点での為替レートに基づいて他地域の価格が決定されているのではないかと考えられている。この方法で決定されているのならば、為替の変動の大きさによって、作品毎に違った価格差が生まれている原因を説明することが出来る。

しかし為替は常に変動するものであり、これは「公平」だと言えるのだろうか。

苛烈な価格設定が生まれる原因

地域をまたがる価格設定において、突然大きな価格差が生まれる理由は大きく2つある。Steam販売価格を既存のパッケージ版価格に合わせる傾向と、テンプレートとなる比率表によって画一的に決めている傾向だ。

Devolver DigitalのGraeme Struthersは「一度米ドルにて処理しなければならないため多くの企業がアメリカ市場に集中し、影響されていることが原因だ」と語る。そのため時には価格設定について殆ど考えることなく、全ての地域において「60」という価格―60ドル、60ポンド、60ユーロ―で販売するという恐ろしい結論に至るパブリッシャも存在しているという。

または2K Gamesのように「US/UK/EU : 10/7/10」といったテンプレートとなる比率表を用いて価格を決定することが多いという。(BioShock 2などは $30/£20/€30の価格設定)多くのパブリッシャがそのような固定比率を用いる中、定まった比率を持たないUbisoftがどのような仕組みで価格を決定しているのかについては回答が得られなかった。

ロシアの販売価格が異常に安い理由

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さまざまな価格設定の仕組みを持つパブリッシャたちが存在するが、彼らの間に存在する唯一全く同じ特徴は、ロシアにおける販売価格が30-70%ほど安価だという点だ。(ブラジルなどSteamに最近追加された地域も同様)

2011年にSteamにはロシアで使用されている通貨・ルーブルが追加されたが、それ以前ではロシアからSteamを利用するには米ドルによるクレジットカードが必要であり、あまりロシアでは利用率が奮わなかった。

これが意味することは、ここ最近までロシアでは多くのPCゲームがいまだにパッケージ版として購入されていたということである。そして、Steamでの販売価格も店頭価格に合わせて設定された。

「ゲームディスク1枚で4ドル、2枚で8ドルだ、端的に言ってロシアでは市場が成り立っていなかった」、TripwireのWilsonは冗談めかして語る。「我々はロシアの市場がゲームに対して対価を払う気が無いことは分かっていた。だからうまくオンラインで販売するためには店頭の価格と競争しなければならなかった。店頭で8ドルで売られていれば、20ドルなんて価格では誰も買ってはくれないさ」

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ロシアなどの一部地域において異常に価格が低い理由は、海賊行為によってなにも利益を得られないよりは、支払ってもらえるギリギリのレベルに合わせることを企業が選択した結果だ。

2011年に行われたソフトウェアの海賊版利用率の調査では、米国の19%と英国の26%に比べて、ロシアは63%と非常に悪名高いことが知られている。しかし、これに対してValve社の代表を務めるGabe Newellは「海賊行為はサービスの問題であって価格の問題ではない」と指摘している。

GeekWireのインタビューにて彼は「海賊行為を止める最も簡単な方法は、アンチ海賊技術を作ることではない。彼らが海賊行為で受け取っているものよりも良いサービスを提供することだ」と語っている。「『ロシアでは多くの人々が著作権を侵害している』と主張する人々はロシアへのローカライズに6ヶ月も掛かっている現状を変えるべきだ」

日本で起こるガラパゴスな逆転現象

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国内のゲーマーからは「おま値」などと揶揄される日本のSteam販売価格だが、それは海外から見ても奇妙なものとして映っているようだ。「面白いことに日本では逆のことが起きている」と海外メディア。

日本においてもSteam販売価格は店頭の販売価格に影響を受けているが、より高い価格に設定される傾向がある。

PCゲームは日本においてきわめてニッチは市場であるが、日本のPCゲーマーたちは7000円や8000円の作品を購入する買い手たちがいる市場であり、多くの日本企業はSteamでゲームを販売したがらないのが現状だ。

理由としては8000円で売ってきたものをSteamで販売されている欧米のゲームのような価格で販売したくないためである。

そのため、Steamにてゲームが販売されることがあっても日本ではパッケージ版と同様の価格設定がなされる。ただでさえニッチな市場の売り上げがオンライン販売によって減少することを防ぐことが狙いだ。

「日本の企業は70ドルから80ドルで販売したがっている」と日本のゲーム販売会社・マーベラスのプロデューサーを務めるEsteban Salazarは言う。「海外の販売店のように多くの人々から小さく利益を得るのではなく、少数の人々から大きく利益を得ることに注力している」

パッケージ版販売の苦境

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インディー系作品の価格設定がほぼ為替の差などだけを考慮した、消費者にとって公平な価格である一方で、AAA級の作品などを擁する世界的パブリッシャはなぜ矛盾をはらんだ価格設定を行っているのかについては、パッケージ販売店に対する配慮を考えることで明らかとなる。

パッケージ販売店に対しても商品を卸している大きなパブリッシャは、そういった小売店に対しても配慮した価格設定を行う必要があり、必ずしも消費者にとって公平とはいえない価格となってしまうことが現状だ。

しかし、年々ゲーム販売におけるダウンロード販売の比率は増加しており、今後も同様にその比率が推移していくことが予想されている。ここ数年のインディー市場の登場によってゲームの販売価格が大きく変わったように、5年後には地域毎の価格差の不平等感は薄れていくことだろう。

ただし、ロシアにおいては5年後であっても価格崩壊が起きているだろう。

via: PCGamer