ファンタジー・スポーツと eSports

これまでのスポーツ観戦では見たこともなかった新風を巻き起こしたファンタジー・スポーツの成功と失敗から、eSports が学ぶべきことは多い。

日本ではまだあまりなじみのない ファンタジー・スポーツ という分野は、日経ビジネスの紹介によれば「自分が選手獲得の最高責任者になったつもりで好きな選手を集めて 空想の最強チーム”を作り、相手チームと“対戦”する」というものだ。現実世界における各選手たちの成績が連動しスコアとして加算されていき、そのスコアの合計で勝負をする。

活躍しそうな選手を見極め、自らの思う最強チームで互いに戦う。ファンタジー・スポーツを運営する各社では参加無料のものから有料のものまで様々なイベントを提供し、数十万人の参加者を集めることで 1 億円以上もの賞金を実現しプレイヤーを熱狂させている。

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1 兆円規模が動く熱狂の渦

DraftKings と FanDuel。ファンタジー・スポーツ分野で成功を収めているこれらの企業は、数百万ドルにも達する賞金への期待とファンタジー・スポーツそのものの興奮を提供することで大きな成長を遂げてきた。

スポーツ賭博に当たる可能性も指摘されているものの、現在のところアメリカにて施行されているオンラインギャンブル禁止法の範囲にファンタジー・スポーツは含まれておらず合法である。純粋な運試しではなく、選手の能力を見抜く技量を駆使して行うゲームだからという理論だ。

ファンタジー・スポーツ事業協会によればアメリカ国内におけるユーザー数は約 3,200 万人をすでに超え、約 1 兆 8,000 億円もの市場を形成しているという。Google や Time Warner といった大企業が資金提供を行っていることからもその盛り上がりが分かるだろう。

直接ファンタジー・スポーツを運営する企業だけでなく、記事や動画といったスポーツ関連コンテンツを扱うメディアや、選手などファンタジー・スポーツ参加者に有益な情報を分析し有料で紹介するメディアなど、周辺企業もその市場の恩恵を受けてさらに市場の巨大化へと貢献している。

インサイダー取引の発覚に揺れるファンタジー・スポーツ

しかし、大金が動くとなればたとえ勝負ごとであったとしても公明正大な手段以外に頼る人々が現れてしまうことがある。ファンタジー・スポーツ業界はこの点で大きなミスを犯した。インサイダー取引だ。

報道によれば DraftKings の従業員が自社のデータを用いて、ライバル企業である FanDuel のゲームに参加し賞金を得ていたことが発覚した。その額は合計 600 万ドルにも及んでいる。

内部関係者しか知ることのできない自社のゲームに参加するオッズ情報を得ることで、類似したライバル企業でのゲームにてほか参加者に比べ有利な状況を作り出していたのだ。

アメリカではこのスキャンダルを受けて FBI が予備捜査に着手し、検察も捜査を開始していることが報じられている。ファンタジー・スポーツ業界には疑惑の目が向けられ、ゲーム参加者からは損害賠償を求める複数の集団訴訟が発生している状況だ。

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プレイヤーの不正を防ぐ仕組みの構築が急務

eSports 業界も今後成長を続けていく中で、何事も対策がなされないままであれば不正行為や腐敗といった大きな問題に直面することは明白だ。

アナリストの予測から今後も倍々の急成長を遂げることが予想されている eSports 業界は、ファンタジー・スポーツ業界と同じ轍を踏むことのないよう、プレイヤーの透明さと公正さを確立していく努力が急務である。

それが成せなければ待っているのは産業の衰退だけだ。