日本産タイトルの海外展開に絡むお金の話

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ヴィジュアルノベル”グリザイア”シリーズが海外パブリッシャーからも注目を集めている。

2011年にフロントウイングが設立10周年目を記念して『グリザイアの果実』を発売し、続く続編として『グリザイアの迷宮』『グリザイアの楽園』の三部作が発表され、スピンオフ作品『アイドル魔法少女ちるちる☆みちる』が登場し、2014年にはテレビアニメ化が行われるなど、グリザイアシリーズはいまや大人気作品の一つとなっている。

2014年12月にはシリーズ作品をすべて英語翻訳し海外版を制作するプロジェクトが発表され、わずか半日で目標金額であった16万ドル(約1,900万円)以上の資金調達を終えてしまうなど、その注目度の高さから話題となったことは記憶に新しい。

近年、SekaiProjectやMangaGamerをはじめとした企業による、日本のビジュアルノベルゲームや同人ゲームを海外向けに翻訳し販売する動きが活発となっている。前述した『グリザイアの果実』シリーズや『CLANNAD』なども海外版制作が進められている。

そこで気になることがお金の話だ。

特にビジュアルノベル作品はその性質上、イラストやキャラクターの音声などに非常に注力して制作されており、声優事務所とのライセンス契約など外部組織とのロイヤリティ関連が複雑であることが予想される。作品開発当初は予定されていなかったであろう、海外展開に際してのライセンス料などは一体どうなっているのだろうか。

『グリザイアの果実』シリーズのライセンス料を例に考察

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■費用内訳
目標金額:$160,000 (約1,900万円)
達成金額:$475,255 (約5,600万円)

  • 40% – 翻訳費用
  • 30% – ライセンス料
  • 20% – 発送及び生産費用
  • 10% – 手数料

『グリザイアの果実』シリーズ全作の翻訳企画を立ち上げ、資金調達を行っていたSekaiProjectが制作資金の内訳を公開している。

目標資金額を超過した分についてはPC版以外のプレットフォームでの販売に向けての活動やグッズ展開などに利用されるとのこと。

参加声優陣などへのライセンス料金

SekaiProjectによればシリーズの総プレイ時間は80時間を超えるボリュームだといい、ビジュアルノベルである本シリーズにおいて、音声部分が締めている割合は相当なものであることが予想される。

翻訳対象となったのはPS Vita向けに既に国内で移植されたフルボイスのPS Vita版である。そんなシリーズにおいて、必要とされていた1,900万円の30%にあたる約570万円が参加声優へのライセンス料金。

声優陣は田中涼子、田口宏子、水橋かおりさんら10名以上が参加しており、実際には出演比率などの様々な事情で等分ではないだろうが、声優一人につき約57万円のライセンス料金を支払っていると考えられる。

翻訳に伴う費用

続いて翻訳及び翻訳に伴うコーディングの金額についてだが、SekaiProjectは本企画についてのコーディング費用割合を明かしていないが、同社が平行して制作を進めている『CLANNAD』におけるコーディングの費用割合は、翻訳料と併せて40%であることが明かされているため、ここでは翻訳に伴う全ての作業が翻訳費用として含まれていると仮定する。

上記の条件で単純に計算した場合、1,900万円の40%にあたる約760万円が翻訳費用となる。

Steamとの利益配分比率はどの程度か

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慈善事業ではなく商業の一環として販売が行われる以上、当然海外版の制作に費やした費用の回収が望まれることは当然である。『グリザイアの果実』シリーズについては現在PC版としてSteamなどでの販売が予定されている。

そこで気になるのがSteamにおける開発者側とSteam側の利益の配分比率だ。

Steamにおける利益配分比率については、2013年に行われたインディー開発者向けイベント「BitSummit」にて、Steamを運営するValve社のDan Berger氏とAl Farnsworth氏が登壇し、利益配分比率について明かしている。

Valve社は「Steamで配信した際の具体的な利益の配分」について質問された際、「普段は開発者側が70%、Steam側が30%である」と答えている。

経費回収のためのペイライン

『グリザイアの果実』三部作の販売価格についてだが、Kickstarter上にて既に公開されている価格によると、企画への投資者には第一作目『グリザイアの果実』は$30から販売を行っていると記されている。

上記の情報を基に、スタッフを雇用し続けるための費用などを全て省き、純粋にローカライズ費用を回収するためにはSteamで一体何本販売できれば良いのかを考える。公表されていない費用が存在する可能性は考慮しない。

翻訳費用760万円 + ライセンス料金570万円 = 1,330万円を売り上げることを目標とする。

Steamにて定価の$30(約3,500円)で販売するとした場合、販売価格の70%が開発者には支払われるため、1本販売するたびに約2,500円の売り上げとなると仮定する。50%セール時に販売された場合はさらに半額の約1,200円と仮定する。

約3,500円で販売時: 13,300,000円 / 2,500円 = 5,320本
約1,200円で販売時: 13,300,000円 / 1,200円 = 11,084本

様々な諸経費を無視し、翻訳及び使用料のみを回収することを目的とした場合、シリーズ合計で約1万本程度を販売することが出来れば、ローカライズ費用は回収できると考えられる。仮に音声無しの翻訳費用だけの場合を考えるとセール時で合計約6,300本以上、ロイヤリティ費用のみを考えた場合は合計約4,700本以上を販売できれば経費を回収できると言える。

今回ローカライズ費用として計算した金額は、シリーズ三部作の合算であるため、費用のセットによる割引を考慮しても、単作品あたりはさらに価格を抑えることが出来るかもしれない。

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ただの一人の日本人Stem利用者として

長々と省略した部分も多い検証をなぜ、何のためにここまで続けてきたかというと、国をまたぐ海外向けのローカライズ費用に関して、企業間の金銭のやりとりが表になることはあまりないが、そこまで天文学的な数字ではなく、現実的な数字に収まっていることを主張したかったためだ。

費用回収に関してもそれほど無謀な販売本数ではなく、有志団体などの形態であれば十分にペイ可能なラインに収まっている(はず)。もっと多くの国産のゲームがSteamへと進出し、もっと手軽に入手できるようになってくれれば、ただの一人のゲーマーとしては嬉しい限りだ。